言葉のお守り

「おばあちゃん、しまないでね。」
母はこの言葉をいつも大事そうにポケットにしまいこんでいます。

遊びに来た孫が帰りがけに言ったひとこと。
『しまないで』というのは、『死なないで』ということです。

そのときの母は健康そのものでぴんぴんしていましたし、
他の大人たちがあぜんとしている意外な反応に、彼は幼いながらも
「あれ?ぼく、変なこと言っちゃった?」という顔をしていたのでした。
けれども母だけは違っていて、彼をきつく抱きしめながら
「ありがとね、ありがとね、おばあちゃんがんばるからね。」と
何度も何度もその頭を撫でたのでした。
 
それはなんだかとてもコテコテでしたが、
見ていると微笑ましくて、額縁をつけてとっておきたいような光景でした。
宙を舞っていた彼の瞳は母の腕のなかで徐々に輝き、
手を振って別れるときには満塁ホームランの自信さえ身につけていたのでした。

今となっては笑い話。
母も相変わらず元気なおばあちゃんですし、
彼にいたっては成長著しく、滑舌だって『ママ』から『かあさん』へ。

それでも母はその言葉をポケットから取り出してはながめているのです。
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by r_dew_1 | 2005-04-28 20:37 | A4  

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