本格中華。

今夜は麻婆豆腐にしようと思う。

そろそろ支度を始めようと冷蔵庫を開けたら、豆腐の上に小人が腰掛けていた。
びっくりしたようにこちらを見たので、「ゴメンナサイ。」といってあわてて閉めた。

小人がいるのはかまわないが、麻婆豆腐はどうしようかと思う。考えた末に麻婆茄子に変更を決め、野菜室を開けると、昨日買ったばかりの茄子は皮が真っ白だった。ポリフェノールが抜けてしまったのかもしれない。
取り出した茄子は意外にも新鮮で、鋭いトゲで指を刺してしまった。

指の先から豆粒のような血がぷっくりと湧いた。
血の粒はあれよあれよという間に大きくなり、ふるふると震えだしたかと思うと、コロリと転がり、私の手のひらに収まった。相変わらず小刻みに震えている。

どうしたものかと見つめていると、薄い血の膜を突き破り、中からぬるりとしたものが現れた。
「ふぅ。」
大きくため息をついたそれは、小さな中国人だった。

何故中国人かというと、いかにも中国人だったから。戸惑う私に、
「ったく、麻婆茄子は邪道だよ。」と、いきなり生意気な口をきく。
「日本人は中国の歴史まで変えちゃうんだから。」どこかでよく聞く台詞だ。
「で、オレが派遣された訳だよ。はいはい、手っ取り早くやっちゃうから、豆腐出して...。」
豆腐に座ってる小人はどうするんだ?そう、考えている私を見透かすように、
「さっき、座ってたのオレの助手だから。」

「はぁ。」
すっかり中国人ペースで、言葉もでない私が再び冷蔵庫を開けると、さっきの小人の助手は豆腐のパックをずるずると引きずってこちらを見た。
「早く、手を貸して!」
「は、はい。」豆腐を出す。
「早く、こっちも!」
「あ、はい。」助手に手のひらを差し出す。

シンクの脇に立ったふたりの小人中国人は、あれこれと早口で私に注文を出す。
「あぁー、そう切っちゃだめなんだよ。」とか、「あちゃー、この豆板醤は偽物だ。」とか。

そのわりには、ふたりがかりでニンニク一片の皮を剥くのに格闘している。
「ニンニクだけはいいの使ってるじゃん。」
「田子産なの。」
「...?」
「国内産ってこと。」
「まぁ、最高のフカヒレも今は日本産だし、そういうこともあるよな。」
「だからって、フカヒレなんてそう手に入らないけど。」
「ふーん、あったらオレとこいつで最高なのを作ってやれたのに。」

うるさいけど、優しいとこもあるんじゃん。

小皿に顔をうずめるようにして、中国人の小人が味見をする。指示通りとはいうものの、作業のほとんどは私がやったので、内心ドキドキだ。
助手が続いて、味見する。
「好吃。」
「どう?おいしい?」
「あたりまえだよ、オレたちがついてたんだから。」

ガチャガチャ。
玄関から鍵を開ける音がする。どうやら食べる人たちのお帰りだ。

「じゃぁ、これからもがんばれよ。」
中国人の小人のシェフとその助手はシンクの穴へと消えていった。
私の指先には小さな刺し傷が赤く残っていて、まだ少し痛かった。
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by r_dew_1 | 2006-08-30 20:12 | A4  

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